
前回の続きです
前回、AIの使い方は2つに分かれましたという話を書きました。放っておいても手に入る受け身の使い方と、取りに行かないと手に入らない能動的な使い方です。
今回は後者の中身に入ります。AIに仕事を任せる側でいちばん効いてくるのが、AIを育てるという考え方です。
先に、環境の話をさせてください
育てるという話をする前に、いまAIが置かれている環境を整理しておきます。登場するのは3つだけです。
- 人。AIを使う側です
- AI。ChatGPTやClaudeなど、みんなが使っているAIそのもの
- パソコン。そのAIが動く場所。ここが新しく増えました
3つめが肝心です。いまのAIは、パソコンの中のファイルを読めますし、書けます。人が画面に打ち込んだ文章だけを見て答えるのではなく、手元のファイルを開いて中身を確かめてから動く、ということができます。
ファイルを触れると、できることが2つ増えます。ひとつは、AIが自分でプログラムを書いて、自分で動かせること。もうひとつは、細かい決めごとを書き留めておいて、次に動くときにそれを読んでから動けることです。今日の話は、後者のほうです。
AI本体は、みんなで共有しているものです
ここで一度、思い出しておきたいことがあります。AIそのものは、あなた専用のものではありません。
性能も、できることも、いつ変わるかも、提供している会社が握っています。こちら側で変えられるのは、ちょっとした設定くらいです。使う人がコントロールできる幅は、実はかなり狭い。
「AIはすぐ忘れる」「前に言ったことを覚えていない」と感じたことがあると思います。理由はここにあります。共有のものなので、あなたの会社の事情は、そもそも向こう側に置かれていません。
差がつくのは、パソコンの中だけです
ではどこで差がつくのか。手元のファイルです。
AIがファイルを読めるということは、覚えておいてほしいことを、全部こちら側に置いておけるということです。AIの記憶力に期待するのをやめて、記憶のほうをファイルにしてしまう。動くたびに、それを読ませる。これで「忘れる」は問題でなくなります。
そしてファイルはあなたのものです。好きなだけ書き足せますし、消せますし、増やせます。AI本体は動かせなくても、こちらは動かせる。ここが唯一、自分の手でコントロールできる場所です。
ファイルには、何を書くのか
やることは単純です。AI用のファイルを作って、書き足し続ける。それだけです。中身は、たとえばこういうものになります。
- 好み。どんな言い回しを使うか、どんな進め方が好きか
- やっていること。どの仕事を、どんな順番で回しているか
- 大切にしていること。迷ったときに、何を優先するか
- 絶対にやらないこと。ここがいちばん効きます
- いつ、何をしたか。日付つきの記録
最後のひとつに、小さなコツがあります。「今週」「先週」と書かないこと。ファイルは残り続けるので、相対的な書き方をすると、あとから読んだときに意味がずれます。「9月2日にこれをやった」と、動かない日付で書く。これだけで、時間が経ってからAIが自分で拾えるようになります。
ここまで書けていると、返ってくるものが変わります。「9月2日にこれをやっていますね。それなら、今回はこうしましょう」という形になる。指示を実行するだけの相手から、提案してくる相手に変わります。
実際、ここまで短くなりました
いま僕の手元で動いているものを、2つ挙げます。どちらもその場では何も説明していません。
ひとつめ。手書きの日記です。紙に書いた日記を撮って、チャットに画像を1枚貼る。それだけです。「これは何月何日の日記です」とは打ちません。その形の画像が来た時点で、日記として扱われます。文字起こしされて、その日の記録として保存されるところまで進みます。
ふたつめ。撮影の完了報告です。撮影が終わったら、「撮影完了 540円」とだけ送ります。これで案件の記録が更新され、交通費が入ります。
この一言で足りるのは、書いてあるものを読んでいるからです。いまの時刻を見て、今日どの現場に行っているかを予定から調べ、この報告はその案件のことだと判断する。金額のほうも、いつも片道の交通費を送っていると分かっているので、そこへ入れます。
賢いことをさせているわけではありません。ずれたところを、その都度ファイルへ書いてきただけです。
育て方そのものは、拍子抜けするほど単純です
やっているのは、3つの繰り返しだけです。頼む。ずれる。ずれた理由をその場でファイルに書く。すると次からは、言わなくても合うようになります。
大事なのは真ん中です。口で言い直して終わりにすると、来月も同じことを言う羽目になります。言い直すほうが一瞬で済むので、つい書かずに流してしまう。ここを書くかどうかだけで、半年後にまったく違うものになります。
僕の場合、記録が残っているのは7月の下旬からです。1か月あまり、毎日のように書き足してきました。上の2つができるようになったのは、その積み重ねの結果です。
長く積んだ人ほど、有利になります(ここからは僕の予想です)
ここからは、根拠のある話ではありません。毎日触っている人間の見立てとして読んでください。
AI本体の性能は、みんな同じです。同じものを、同じ日から使えます。ところが手元のファイルだけは、時間をかけないと積み上がりません。あとからお金で買うこともできません。
しかも、積み重ねが効く度合いが上がっています。AIが賢くなるほど、書いてあることをうまく汲み取るようになるからです。同じファイルでも、以前より効きます。
つまり、長く積んできた人と、これから始める人では、スタート地点が違います。始めた日の差が、そのまま残る。ここは、あとから追いつきにくいところだと思っています。
だからこそ、育て方には計画が要ります
ここまで読むと「とにかく書き溜めればいい」と聞こえるかもしれませんが、そうでもありません。
何を書き、何を書かないか。どこに置くか。どれを毎回読ませ、どれは必要なときだけ引かせるか。決めずに増やすと、量はあるのに使われないファイルができます。1年後にどうなっていたいかから逆算して、置き場所と書き方を先に決めておくほうが、結果的に速く進みます。
長期の視点で、どう育てるかを計画する。能動的にAIを使うというのは、道具を選ぶ話ではなく、ここまで含めた話だと考えています。
いま押さえておくといいこと
- AI本体は共有のもの。性能も仕様も、こちらでは変えられません
- 変えられるのは手元のファイルだけ。ここが唯一の自分の陣地です
- 好み・決めごと・やらないこと・日付つきの記録を書き足していく
- 相対的な日付で書かない。「先週」ではなく「9月2日」と書く
- ずれたら、その場で書く。言い直して終わりにすると、また同じことが起きます
- 始めた日の差は、あとから買えません。積み上げた時間がそのまま差になります
あなたの会社のAIは、何を覚えていますか
AIを導入したのに思ったほど便利にならない、という話をよく伺います。中身を聞いてみると、毎回ゼロから説明し直していることがほとんどです。それは道具のせいではなく、覚えておく場所を作っていないだけです。
いま自分の事務所で何をどこまで任せているかは、全体像をまとめた記事にそのまま書いています。上に書いたファイルを1か月あまり積んだ結果が、あの状態です。
何をファイルに書き、どこから育てていくか。その最初の設計を一緒にやるのが初回相談の1時間です。まだ何も決まっていない状態で大丈夫です。
あなたの会社のAIは、いま何を覚えているでしょうか。覚えていないなら、覚えさせるところからです。
この話、他人事ではないと思われたら
AIを育てるというのは、社内のやり方をAIに読める形にしていく作業です。ここを一緒に組み立てるのがAI・DX伴走支援(月額で毎月手を入れる形)と、Claude Code 導入支援(組んで動く形にしてお渡しする形)です。どちらが向いているかは、お話を伺って決めます。まずは初回相談から。

